おまじないの言葉
私にはもう一つ大切にしている言葉があります。
以前工務店で現場監督として働いていた時、マンションの一室の全改装の現場を担当させていただきました。
その現場は大阪の北の方にあり、生野区の職場から片道1時間弱、軽トラックに乗って4〜5ヶ月程通いました。
私は毎朝8時半ごろからその現場に行っていたのですが、そこでは1人の掃除婦さんが働かれていました。
毎日顔を合わせるうちにだんだん他愛もないことから、お互いの家族のこと、これまであったこと、仕事のことなど話をするようになりました。(その時腰痛に悩んでいた私はその掃除婦さんがヘルニアで入院して全快されたというお話も聞き、腰痛を治すストレッチ法も教えてもらいました。また、治るんだ!という勇気をもらいました。)
そして色々なお話をさせてもらった中でとても印象に残っている言葉があります。
それは、
「私は毎日ここを自分の家だと思って一生懸命綺麗にしているよ」
という内容の言葉です。
その言葉をきいてはっとし、とてもあたたかい気持ちになりました。
それまで自分なりに誠実に、一生懸命働いていましたが、「自分の家のように思って」できていたかな、と考えるとそういう考えには至っていませんでした。
ただ、お客様に、職人さんに、上司に、会社に満足してもらえるように、という思いが強かった気がします。それゆえその期待に応えなければいけない、というプレッシャーも知らず知らずのうちに感じてしまっていました。
そのマンションの現場は施主様が他社の建築設計者ということもあり、難しい内容が詰まっていて工事期間中に造作工事がどんどん追加で増えていくにも関わらず、工期は延びず、うまくいかないことも多い、そんな超大変な現場の真っ最中で、でもその明るくて朗らかな掃除婦さんと話すと気分が晴れました。そんな様子をもしかしたら無意識下で感じとってその会話が出てきてくれたのかもしれません。
その掃除婦さんに出会ってその言葉をいただき、
「自分の家だと思って作る」
「自分が携わらせていただいたお家は自分の家だと思って大事に扱う」
自分もその掃除婦さんのように、朗らかに一生懸命働ける人でありたい、と思いました。
そしてその現場は大変良いものができ、施主さまも社長もみんな大満足で桜満開の時期に桜満開のお部屋で(ちょうど2階の前面道路に咲き誇る桜の正面のお部屋で見事な景色で感無量でした。が、大変すぎたせいで写真が無いのが残念。)無事お引き渡しを終えました。
その現場が終わった後の別の現場でも仕事が大変で投げやりになってしまいそうになった時はこの言葉を思い出して、真摯な気持ちを取り戻して頑張りました。
モノ作り・家作りは、もちろんデザインや納まりも重要だけど、実際に作ることに携わる人のそういった真っ直ぐな気持ちがその時作っているモノをよいモノにしていくのではないかなぁ。
その掃除婦さんからいただいた言葉は絶対に忘れない、私にとっては大切なおまじないの言葉です。
↑もうすぐ完成間近の現場の写真
今にも咲きそうな桜の木が少しみえています。